ピロリ菌というと、多くの方がまず思い浮かべるのは胃炎や胃潰瘍、そして胃がんの話だと思います。実際に、ピロリ菌の除菌は胃がん予防のうえでとても大切です。
でも最近、そこにもうひとつ気になる視点が加わってきました。
ピロリ菌の感染や除菌が、大腸がんのリスクにも関係しているかもしれない という研究が報告されたのです。
今回は、2026年に Gut に報告された新しい研究をもとに、「ピロリ菌を除菌する意味は、これからもっと大きくなるかもしれない」というお話を、わかりやすく整理してみます。
1. ピロリ菌の除菌は胃がん予防のためにとても大切
まず大前提として、ピロリ菌の除菌が大切だと言われる一番の理由は、やはり胃がん予防です。
ピロリ菌は、胃の粘膜に長く炎症を起こし、萎縮性胃炎や胃潰瘍の背景になり、将来的な胃がんリスクにも関わることが知られています。胃がんのページでも、ピロリ菌の感染歴は大切なリスク要因のひとつとして扱われています。
さらに、胃カメラの案内でも、
- ピロリ菌感染や除菌治療を受けたことがある方
- 40歳以上で、これまで一度も胃カメラを受けたことがない方
は、定期的な確認を考えたい方として挙げられています。
つまり、ピロリ菌は「胃が痛いときだけ気にするもの」ではありません。
症状が落ち着いていても、将来の胃を守るために向き合う意味がある感染 です。

2. 今回の研究では、「大腸がんとの関係」まで調査
今回の論文は、2026年6月30日に Gut に掲載された研究です。
中国の2つの大規模コホートを使って、
- ピロリ菌に感染している人は大腸がんが増えるのか
- ピロリ菌の治療を受けた人では大腸がんが減るのか
を見ています。
対象になったのは、
- Shandong Intervention Trial(SIT): 3,365人、1995年から2024年まで追跡
- Mass Intervention Trial in Linqu, Shandong Province(MITS): 180,284人、2011年から2024年まで追跡
という2つの集団です。
結果として、ピロリ菌陽性で、抗菌薬による治療を受けていない人は、ピロリ菌陰性の人より大腸がんリスクが高い という関連がみられました。
- SIT では HR 2.96
- MITS では HR 1.27
でした。
難しく見えるかもしれませんが、ここで受け取っていただきたいのは、
「ピロリ菌は胃だけの話ではないかもしれない」 ということです。
3. 除菌後の大腸がんリスクはどうだったの?
今回いちばん注目されたのはここです。
SIT では、約29.4年 というかなり長い追跡の中で、ピロリ菌治療を受けた人の大腸がんリスクは、受けていない人よりHR 0.47 でした。数字で言うと、リスクが約53%低かった ことになります。
さらに、除菌がしっかり成功していた人に限ると HR 0.38 で、約62%低い という結果でした。
これだけ見ると、とてもインパクトがありますよね。
ただし、もう一方の MITS では、13.8年 の追跡で全体としての明確な低下は示されませんでした。こちらの全体結果は HR 1.17 で、統計学的には「はっきり下がった」と言い切れる形ではありませんでした。
一方で、その中でも
- 遺伝的に大腸がんリスクが高い人
- 特定のピロリ菌の毒性因子を持つタイプに感染していた人
では、保護的な効果が見えていました。
ここが、この論文の面白いところであり、同時に慎重に読むべきところでもあります。
4. 「除菌したほうがよい理由」はこれから広がるかも
この研究から、すぐに
- 除菌すれば全員の大腸がんが防げる
- ピロリ菌がそのまま大腸がんの直接原因だと断定できる
とまでは言えません。
論文の結論も、既存のランダム化試験コホートを用いた事後解析の観察的検討 という位置づけです。つまり、とても興味深い結果ではありますが、現時点では「可能性が示された」と受け止めるのが適切です。
それでも、患者さん目線では大きな意味があります。
もともとピロリ菌除菌には、
- 胃がん予防の観点で意味がある
- 胃炎や潰瘍の背景整理につながる
- 除菌後も定期的な胃カメラで胃の状態を見ていくきっかけになる
というメリットがあります。
そこに今後、大腸がんリスクにも良い影響があるかもしれない という視点が加わるなら、除菌に向き合う意味はさらに大きくなるかもしれません。
「胃のためだけの話」と思うと後回しにしやすいことでも、全身のがん予防の文脈で見ると、受け止め方が変わる方も多いと思います。
5. ただし、除菌したら終わりではない
ここはとても大切です。
ピロリ菌の除菌は大事ですが、除菌したらもう何もしなくてよい、という意味ではありません。
ピロリ菌感染歴や除菌歴がある方は、症状がなくても胃カメラで定期的に確認していくことが大切です。
また、便潜血陽性、血便、便通の変化、腹痛、お腹の張り、原因のはっきりしない体重減少などがある場合は、大腸の評価も考えたいところです。
つまり、
- ピロリ菌は胃の側からしっかり管理する
- 必要な方は大腸の側も見逃さない
この両方が大切です。
今回の論文は、その2つが別々ではなく、つながっている可能性を感じさせる内容だったとも言えます。
よくあるご質問(FAQ)
Q. ピロリ菌を除菌すれば、大腸がん予防まで期待してよいのでしょうか?
A. 期待が持てる研究ではありますが、現時点で全員に同じような予防効果が確立したとは言えません。今回の論文でも、一方のコホートでは全体として明確な低下は示されず、一部の集団で保護的に見えたという結果でした。ですので、「可能性がある」と受け止めるのが適切です。
Q. 昔除菌しました。もう胃カメラは受けなくていいですか?
A. いいえ。除菌後も胃カメラでの定期的な確認は大切です。ピロリ菌感染や除菌歴がある方は、症状がなくても胃の状態を見ていく意味があります。気になる症状があれば、なおさら早めに相談したほうが安心です。
メッセージ
ピロリ菌の除菌というと、これまでは「胃のため」というイメージが強かったと思います。もちろん、その考え方は今もとても大切です。
ただ今回の論文は、ピロリ菌に向き合う意味が、将来的にはもう少し広いものになるかもしれないと感じさせてくれました。胃がん予防だけでなく、大腸がんリスクとの関係まで視野に入ってくるなら、除菌を後回しにしない理由はさらに増えるかもしれません。
一方で、研究としてはまだ慎重に読むべき段階でもあります。だからこそ、怖がるためではなく、今できる予防をひとつずつ積み重ねるための情報 として受け取っていただけたらと思います。
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<監修>

イチ*ビル消化器内科クリニック 院長
消化器病・消化器内視鏡専門医
三浦 昂

