「便に白いひもみたいなものが混じっていました。これって何ですか?」
もしトイレでそんなものを見つけたら、かなり驚くと思います。
腹痛や下痢ならまだ想像がついても、白いひも状のものが出てきたとなると、「家族にうつるのでは」「体の中にまだいるのでは」「大きな病気では」と、一気に不安になりますよね。スマホで検索すると怖い画像や強い表現も出てきて、余計に落ち着かなくなる方もいると思います。
でも、慌てなくて大丈夫です。大切なのは、出てきたものを捨てずに、医師の確認につなげること です。
今回は、いわゆる「サナダムシ」と呼ばれている条虫症について、お話します。
1. サナダムシとは、腸に寄生する「条虫」のこと
サナダムシという名前は、昔の真田紐に似た、平たく長い形から呼ばれるようになったと言われています。
医学的には「条虫」と呼ばれる寄生虫の仲間です。ヒトの腸の中で成虫として生きるものがあり、日本で比較的知られているものには、日本海裂頭条虫、無鉤条虫、有鉤条虫などがあります。
国立感染症研究所機構の報告では、日本における、魚を感染源とする条虫症の中で、日本海裂頭条虫が最も多いと考えられています。
感染のきっかけは、主に幼虫がいる食材を生、または加熱不十分な状態で食べることです。
- 日本海裂頭条虫:サクラマス、カラフトマス、シロザケなど
- 無鉤条虫:牛肉
- 有鉤条虫:豚肉
もちろん、魚や肉を食べたら必ず感染するという話ではありません。
ただ、刺身や寿司、生に近い肉料理などを食べる文化がある以上、「まったく無関係」とも言い切れない病気です。
2. 症状は強くないことが多く、いちばん多いきっかけは「虫体が出て驚く」
サナダムシと聞くと、「お腹の中で大変なことが起きているのでは」と想像してしまうかもしれません。
実際は、腸の中に成虫がいるだけでは、強い症状が出ないことが多いです。
日本海裂頭条虫では、成虫が5〜10mほど、場合によっては10mを超えることもあるとされています。それでも、組織へ深く入り込むタイプではないため、症状は軽いことが少なくありません。
症状としては、
- 下痢
- 軽い腹痛
- お腹の張り
- なんとなくお腹が落ち着かない感じ
などです。
ただし、患者さんが受診する一番のきっかけは、腹痛よりも「白いひも状のものが便に混じった」「肛門から何かが出てきた」という驚きや不快感です。
つまり、症状が軽いから気にしなくていい、ということではありません。
症状が強くないからこそ、出てきたものを手がかりにして確認することが大切 です。

3. 見つけたら、捨てずに「写真」か「実物」が診断の助けに
もし便に白いひも状のものが混じっていたら、可能であれば次のどちらかをしてください。
- スマートフォンで写真を撮る
- 実物を乾燥しないようにして持参する
「写真に撮るなんて!」「そんなものを持っていくのは恥ずかしい」と感じる方もいると思いますが、診断ではこれがかなり大切です。
条虫症の診断では、便の検査で虫卵を調べたり、排出された虫体や片節という一部を確認したりします。見た目だけで種類を判断できない場合には、専門的な検査や遺伝子検査が必要になることもあります。
特に大切なのは、条虫には種類があるという点です。
魚由来の日本海裂頭条虫と、牛肉・豚肉に関わる条虫では、感染経路や注意点が違います。有鉤条虫では、成虫だけでなく幼虫による病気が問題になることがあり、種類の確認が重要です。
出てきたものは、気持ち悪いかもしれません。でも、医療者にとっては診断に近づく大事な情報です。
4. 家族にすぐうつる?過度に怖がらなくても大丈夫
「家族にうつったらどうしよう」
ここも、とても不安になりやすいところです。
日本海裂頭条虫のような魚由来の条虫は、基本的には幼虫がいる魚を、生または加熱不十分な状態で食べることで感染します。虫体が出てきた人と同じ部屋にいた、同じお風呂に入った、同じ空間で食事をした、というだけで直接うつるわけではありません。
ただし、便を扱ったあとは手洗いをしっかりする、トイレまわりを清潔にする、調理では生ものと加熱済み食品を分ける、といった基本的な衛生対策は大切です。
また、家族で同じ生魚や加熱不十分な肉を食べている場合は、同じ感染源を共有している可能性はあります。
つまり、「患者さんから家族へ空気のように広がる」と考える必要はありませんが、「同じ食事をした人に同じリスクがなかったか」は振り返る価値があります。
不安が強い場合は、受診時に「家族も同じものを食べました」と伝えてください。
5. 治療は内服薬などで行う
サナダムシの治療では、プラジカンテルという抗寄生虫薬などが使われることがあります。
日本寄生虫学会で紹介されている薬物治療の手引きでも、日本海裂頭条虫症などの腸管寄生条虫症に対して、抗寄生虫薬を用いる駆虫法が示されています。
ただし、皆さんがここで細かい飲み方を覚える必要はありません。
治療では、薬を飲んで終わりではなく、虫体がきちんと排出されたか、治療後に便検査で虫卵が陰性になっているかを確認することがあります。頭の部分が残ると再び成長する可能性があるため、治療後の確認も大切です。
ですので、まずは「本当に条虫なのか」「どの治療が適切か」を判断するために医療機関を受診してください。
6. 予防は「生食をゼロにする」より、リスクの高い食べ方を知る
サナダムシを予防するうえで大切なのは、感染経路を知ることです。
日本海裂頭条虫では、天然のサケ・マス類を生、または加熱不十分な状態で食べることがリスクになります。大阪健康安全基盤研究所によると、予防として56℃以上の加熱、刺身や寿司として食べる場合は−20℃以下で24時間以上の冷凍が有効とされています。
一方で、スーパーなどでよく見るアトランティックサーモンやトラウトサーモンは、養殖物であることが多く、日本海裂頭条虫やアニサキスに感染している可能性は低いと説明されています。
ここで伝えたいのは、「魚を食べてはいけない」という話ではありません。
- 天然のサケ・マス類を生で食べる場合は注意する
- 加熱が不十分な魚や肉は避ける
- 生食用かどうか分からないものを自己判断で生食しない
- 調理器具や手洗いなど、基本的な衛生管理をする
怖がりすぎず、でも軽く見すぎず。これが一番現実的な予防です。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 白いひも状のものが出ました。すぐ救急に行くべきですか?
A. 強い腹痛、発熱、嘔吐、血便、ぐったりする感じがなければ、まずは写真を撮る、可能なら実物を乾燥しないように保管する、そして消化器内科へ相談する流れでよいことが多いです。ただし、症状が強い場合や小さなお子さん、高齢の方、持病がある方は早めに医療機関へ相談してください。
Q. 虫体を途中で引っ張って取ってもいいですか?
A. 無理に引っ張るのはおすすめしません。途中で切れてしまうことがあります。自然に出たものを可能な範囲で保管し、写真を撮って受診時に見せてください。
Q. 家族も検査したほうがいいですか?
A. 日常の接触だけで次々にうつると考える必要はないです。ただし、同じ生魚や加熱不十分な肉を食べている場合は、同じ感染源に触れている可能性があります。症状や不安がある場合は、受診時に家族の食事歴も含めて相談してください。
メッセージ
トイレで白いひも状のものを見つけたら、誰でも驚きます。
「気持ち悪い」
「恥ずかしい」
「誰にも言いたくない」
そう感じるのは自然です。
でも、消化管寄生条虫症は、出てきたものを確認することで診断に近づける病気です。恥ずかしがって捨ててしまうより、写真や実物を持って相談していただくほうが、次の一歩がはっきりします。
必要以上に怖がる必要はありません。多くは強い症状がないこともありますし、治療や確認の方法もあります。
一方で、種類によって注意点が違うため、自己判断で終わらせないことが大切です。
便に白いひも状のものが混じった、肛門から何かが出た、生魚や加熱不十分な肉を食べたあとから気になっている。そんなときは、ひとりで悩まずご相談ください。
イチ*ビル消化器内科クリニックみうらでは、消化器内科として便やお腹の症状のご相談を受け付けています。受診やご予約はLINE、WEB、電話から可能です。
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<監修>

イチ*ビル消化器内科クリニック 院長
消化器病・消化器内視鏡専門医
三浦 昂
参考情報
- 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「わが国における条虫症の発生状況」
- 大阪健康安全基盤研究所「トイレで気づく食中毒、日本海裂頭条虫症」
- 日本寄生虫学会「寄生虫症薬物治療の手引き 改訂(2020年)第10.2版」
- CDC DPDx「Diphyllobothriasis」

