「便秘が何日か続いたと思ったら、今度は急に下痢になる」
「下痢が落ち着いたと思ったら、またコロコロした便になる」
外来でも、このようなご相談は珍しくありません。
「便秘と下痢って正反対なのに、どうして両方起こるんですか?」と不思議に思いますよね。
結論からいうと、便秘と下痢を繰り返す方の中には、過敏性腸症候群(IBS)の「混合型(IBS-M)」が隠れていることがあります。
IBS-Mでは、腸がずっと動かないわけでも、ずっと動きすぎているわけでもありません。
腸の動きや便が進む速さ、水分の吸収などが一定ではなく、「便秘側」と「下痢側」の間を揺れ動くと考えるとわかりやすいです。
今回は、「なぜ便秘と下痢を繰り返すのか?」を、できるだけわかりやすく解説します。
1. 便の硬さは「大腸にいる時間」で変わる
まず知っておいてほしいのは、便の硬さは、大腸の中をどれくらいの速さで進むかと深く関係しているということです。
大腸の大きな役割のひとつは、便から水分を吸収することです。
便が大腸の中をゆっくり進むと、水分が長い時間吸収されます。
その結果、便の水分が少なくなって、コロコロした便や硬い便になりやすくなります。
これが「便秘側」の状態です。
反対に、腸の動きが強くなり、便が大腸を速く通り抜けると、水分を十分に吸収する時間がありません。
すると、水分を多く含んだまま便が出て、軟便や水のような下痢になります。
つまり、
腸の動きがゆっくり
↓
便が長く大腸にとどまる
↓
水分が多く吸収される
↓
硬い便・便秘
反対に、
腸の動きが速い
↓
便が早く大腸を通過する
↓
水分を十分に吸収できない
↓
軟便・下痢
という関係があります。便の形と腸を通過する時間には関連があることが以前から知られています。

2. IBS-Mでは「硬い便」と「ゆるい便」の両方が出る
過敏性腸症候群(IBS)は、繰り返す腹痛と便通の変化を特徴とする病気です。
便の状態によって、
- 便秘型(IBS-C)
- 下痢型(IBS-D)
- 混合型(IBS-M)
- 分類不能型(IBS-U)
などに分けられます。
このうち混合型(IBS-M)は、硬い便とゆるい便の両方がみられるタイプです。
大切なのは、
「便秘が治った反動で、必ず下痢になる」
という単純な仕組みではないことです。
IBSでは、腸の運動、腸からの水分分泌、食事に対する反応、脳と腸の情報のやり取りなど、さまざまな要素が便通に関係します。
そのため、ある時期は便秘側に傾き、別の時期には下痢側に傾くことがあります。
実際、IBSの患者さんでは、同じ人でも時間の経過とともに硬い便とゆるい便が入れ替わることが報告されています。
つまり、
「平均すると普通そうに見えるのに、実際には便秘と下痢を行ったり来たりする」
ということが起こりうるのです。
3. なぜ腸の状態が日によって変わるのか?
では、どうして同じ人なのに腸の状態が変わるのでしょうか?
実は、IBSの原因はひとつではありません。
現在は、**「脳腸相関」**といって、脳と腸が互いに影響し合う仕組みが重要だと考えられています。
たとえば、
「仕事に行く前になるとお腹が痛くなる」
「大事な会議の日だけ何度もトイレに行きたくなる」
という経験はないでしょうか?
ストレスや睡眠不足などによって自律神経の働きが変化すると、腸の動きや腸の感じ方にも影響します。
さらに、食事も大きなきっかけになります。
食べ物が胃に入ると、その刺激によって大腸が動き始める**「胃結腸反射」**が起こります。
大腸には、便を肛門側へ大きく送り出す強い収縮もあります。専門的には**高振幅伝播性収縮(HAPC)**と呼ばれる動きです。
簡単にいえば、
「大腸が便を一気に先へ送る大きな波」
のようなものです。
こうした腸の送り出す運動の強さやタイミングも、排便に関係しています。
さらに腸の働きには、
- セロトニン
- 胆汁酸
- 腸内細菌が作る物質
- 食事内容
- 睡眠
- ストレス
- 自律神経
など、さまざまな要素が関係しています。
これらの状態は毎日まったく同じではありません。
そのため、IBS-Mでは便秘側と下痢側の間を揺れ動くことがあるのです。
4. 「便が詰まり、その横から下痢が漏れている」だけではない
「便秘のあとに下痢になるなら、硬い便が詰まって、その横を水っぽい便が流れているだけでは?」
と思う方もいるかもしれません。
実際、高度の便秘で便が大量にたまると、その周囲を軟らかい便が通って下痢のように見えることがあります。
これを「溢流性下痢(いつりゅうせいげり)」といいます。
ただし、IBS-Mのすべてをこの仕組みで説明することはできません。
IBS-Mでは、本当に便の硬さが変化し、硬い便と軟らかい便の両方が出現します。
一方で、
「便秘薬を飲むと下痢になる」
「下痢止めを飲むと今度は便秘になる」
という方もいます。
この場合は、もともとの腸の状態に加えて、薬の影響によって便秘と下痢を行き来している可能性もあります。
そのため、「便秘→下痢→便秘」と繰り返しているときは、便だけを見るのではなく、食事・薬・腹痛・排便のタイミングなどを一緒に見ていくことが大切です。
5. 「便秘と下痢を繰り返す=IBS」とは限らない
ここは、とても大切です。
便秘と下痢を繰り返すからといって、すべてがIBSとは限りません。
IBS以外にも、腸の炎症、甲状腺機能の異常、薬の影響、大腸がんなど、さまざまな原因で便通が変化することがあります。
特に、
- 血便がある
- 黒っぽい便が出る
- 夜中に下痢で目が覚める
- 発熱がある
- 原因がわからない体重減少がある
- 貧血を指摘された
- 最近になって急に便通が変わった
- 大腸がんや炎症性腸疾患の家族歴がある
といった場合は、「いつものIBSだろう」と自己判断せず、一度消化器内科に相談してください。
必要に応じて血液検査、便検査、大腸カメラなどを行い、他の病気が隠れていないか確認します。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 便秘のあとに下痢が出たら、便秘が解消されたということですか?
必ずしもそうではありません。一時的に腸の動きが強くなって下痢になっていることもありますし、便が残ったまま軟らかい便だけが出ている場合もあります。「下痢が出た=腸の中が空になった」ではありません。
Q. IBS-Mは治療できますか?
IBS-Mにも治療の選択肢があります。ただし、便秘だけを見て便秘薬を強くすると下痢になり、下痢だけを見て下痢止めを使うと便秘になる、ということがあります。そのためIBS-Mでは、腹痛、便の硬さ、排便回数、残便感、食事との関係などを確認しながら治療を調整することが大切です。
Q. 便の状態を記録したほうがいいですか?
とても役立ちます。「今日は便秘」「今日は下痢」だけではなく、ブリストル便形状スケールを使って、1〜7番のどの便だったか記録しておくと、自分の腸の傾向が見えやすくなります。食事、腹痛、ストレス、薬を飲んだ日なども一緒に記録しておくと、診察でも原因を整理しやすくなります。
メッセージ
便秘と下痢を繰り返していると、
「自分の腸はいったいどうなっているんだろう」
「便秘薬を飲んだほうがいいのか、下痢止めを飲んだほうがいいのかわからない」
と不安になると思います。
でも、「便秘と下痢を繰り返す」という症状には、きちんと理由があります。
IBS-Mでは、腸の動きや便が進む速度、水分の吸収などが一定ではなく、便秘側と下痢側の間を揺れ動いている可能性があります。
大切なのは、その日の便だけを見て薬を足したり減らしたりするのではなく、
「どういう時に便秘になり、どういう時に下痢になるのか」
を一緒に整理することです。
便秘、下痢、腹痛、お腹の張りなどが続いている方は、ひとりで悩まずご相談ください。
イチ*ビル消化器内科クリニックみうらでは、症状の経過を丁寧に確認し、必要に応じて検査を行いながら、その方に合った治療を一緒に考えていきます。
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<監修>

イチ*ビル消化器内科クリニック 院長
消化器病・消化器内視鏡専門医
三浦 昂
参考情報
- Corsetti M, et al. Bowel Disorders. Gastroenterology. 2026.(Rome V)
- Lewis SJ, Heaton KW. Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time. Scand J Gastroenterol. 1997;32:920-924. PMID: 9299672.
- Palsson OS, et al. IBS patients show frequent fluctuations between loose/watery and hard/lumpy stools: implications for treatment. Am J Gastroenterol. 2012. PMID: 22068664.

